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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)6492号 判決 1989年2月02日

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 高木伸學

被告 都民総合共済生活協同組合

右代表者理事 中津清次

被告 全国生活共同組合連合会

右代表者理事 翁久次郎

右被告両名訴訟代理人弁護士 林茂夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金七二〇万円及びこれに対する昭和六三年五月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  訴外亡乙山春子(以下「訴外春子」という。)は、昭和六二年二月一日、被告都民総合共済生活協同組合に加入するとともに、同組合が被告全国生活協同組合連合会から委託を受けて被告組合が行う次の生命共済及び交通災害保障共済に加入した。

(一) 給付金額 不慮の事故による死亡の場合 七二〇万円

(二) 死亡共済金の受取人(次の順位により受け取る。)

(1) 加入者の配偶者

(2) 加入者と同一世帯に属し生計を一にする同人の子

(3) 加入者と同一世帯に属し生計を一にする同人の孫

(4) 加入者と同一世帯に属し生計を一にする同人の父母

(5) 加入者と同一世帯に属し生計を一にする同人の兄弟姉妹

(6) 前記(2)に該当しない加入者の子

(7) 前記(3)に該当しない加入者の孫

(8) 前記(4)に該当しない加入者の父母

2  訴外春子の自宅は昭和六二年四月一二日に焼失したが、その際、同人も焼死した。

これは、前記1(一)の不慮の事故による死亡にあたる。

3  原告は訴外春子の母であり、訴外春子の配偶者訴外亡乙山松夫(以下「訴外松夫」という。)は、前記2の自宅焼失時に訴外春子と同時に死亡し、また同人には同一世帯に属する子その他の親族がなく、またそれ以外の子、孫もいない。

そのため、原告が前記一(一)の共済金の受取人資格を取得した。

よって、原告は被告ら各自に対し、共済金七二〇万円及び本訴状送達の日の翌日である昭和六三年五月二九日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2のうち前段の事実は認め、後段は争う。

3  同3のうち前段の事実は不知、後段は争う。

三  抗弁

1  訴外春子は、訴外松夫の故意による行為により頭蓋骨骨折、頭部挫創、脳挫滅の傷害を受けて意識を失い、その結果焼死した。

2  ところで、被告らは、その行う生命共済事業について、消費生活協同組合法第二六条の三に定めるところにより、規約でその実施方法を定めている。

その規約である個人生命共済事業規約(以下「本件規約」という。)第二四条(1)本文は、共済事故が共済金受取人(以下「受取人」という。)の故意に基づく行為により発生した場合には、共済金を支払わない旨定めている。

したがって、訴外春子の死亡事故は、前記1のとおり受取人である訴外松夫の故意に基づく行為によって発生したものであるから、被告らは、本件の共済金を支払う事ができない。なお、右規定の定める受取人とは、故意に共済事故を発生させることにより前記一1(二)の受取人となり得る地位の者を指すものと解すべきである。また、同条(1)但書きは、受取人が故意に被共済者を死亡させた場合において、その者が共済金の一部の受取人であるときは、共済金の残額をその他の受取人に支払う旨定めているが、これは、故意に共済事故を発生させた者が当初から共済金の一部についてのみの受取人であった場合を定めたものであって、本件のように、訴外松夫が共済金の全部の受取人であった場合について定めたものではない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2のうち第一、二段の事実は認め、第三段は争う。

訴外松夫は、訴外春子と同時死亡の関係にあるため、同人の死亡時には前記一1(二)(1)の本件の共済金の受取人となる地位になかった。本件規約第二四条(1)に定める受取人とは、被共済者の死亡時に現実に受取人資格を有する者を指す。これは、同条(1)但書きが、共済事故を発生させた原因行為者以外の受取人について請求権が損なわれないことを定めているところからも明らかである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、訴外春子には子及び孫がなく、また同一世帯に属し生計を一にする兄弟姉妹もないこと、訴外春子とその配偶者である訴外松夫は、ともに昭和六二年四月一二日午後一一時三〇分頃死亡したものであり、同時に死亡したものと推定されることが認められる。

右の事実によれば、訴外春子の死亡は不慮の事故によるものであり、一応、原告が本件の共済金の受取人にあたることになる。

二1  そこで、抗弁について検討するに、抗弁1及び2第一、二段の事実は当事者間に争いがない。

2  原告は、本件規約第二四条(1)の定めについて、これは死亡という共済事故発生当時の同規約第八条の規定により定まる受取人についてのものであり、本件のように訴外春子と同時に訴外松夫が死亡した場合には、訴外春子の死亡時に訴外松夫が存在しないので、たとえ同人が故意に訴外春子を死に至らしめた場合でも、次順位の受取人である原告に共済金を支払うべき旨主張する。

しかしながら、前記当事者間に争いのない事実によれば、同規約第二四条(1)本文は、共済事故が受取人の故意に基づく行為により発生した場合には、共済金を支払わない旨定めているのであって、同規定は、第一順位の受取人となるべき者の故意に基づく行為により被共済者が死亡した場合には、その死亡当時に当該受取人が生存していたか否かにかかわりなく共済金を支払わないことを定めたものと解され、これは、故意に基づく行為により被共済者を死に至らしめた受取人に後順位の受取人がある場合であっても、変わりがないものと解される。

故意に基づく行為により被共済者を死に至らしめた受取人が被共済者の死亡時に生存している場合は、当該受取人は勿論、後順位受取人も共済金の支払いを受けられないが、被共済者の死亡時に同人を死に至らしめた受取人がたまたま死亡していた場合には、次順位受取人がその支払いを受けられるとするのは、相当でないからである。

なお、同条(1)但書きは、同順位の受取人が二人以上いる場合において、その一人又は数人が加入者を死に至らしめたときは、その者達に支払われるべきであった部分の共済金を、その者達には勿論、後順位の受取人にも支払わないが、それ以外の同順位の受取人には、その者達に支払われるべきであった範囲で支払うことを定めたものであって、原告の主張を根拠付けるものではない。

以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 平賀俊明)

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